これまでにも何度も登場した携帯・スマホ料金のお話。
つい先日解約料の上限が1000円にという報道が出たばかりですが、さっそくこんな記事を目にした。
どこかで必ずこういう記事が出るだろうとは思っていた。
Engadjet日本版より
極めてシンプルに要約すると「論議が性急すぎてキャリアもユーザーも混乱を来す」
という内容になっている。
率直な感想を言うと筆者のスタンスは通信キャリアのロジックありきな考え方になっていて、それでは以前から続いてきた「政府vs通信キャリア」のいたちごっこの根本の原因を理解できていないのでは?と感じてしまう。
自分は筆者のような考え方を”日本的現実主義論”と呼んでいて、なんだかんだと動いてみても実質はさほど変わらない結果を招く最大の要因だと考えている。
おそらくこれまでの有識者会議でも、こういう主張が最終的なゴールを見据える有力意見として幅を利かせていたことは想像に難くない。
今回は自分の主張を理解してもらいやすいように各文脈から引用して説明していきたい。
ー 議論の根本が通信キャリアのロジックにはまっている ー
<引用1>
(これまで)導入するまで一年弱から1年半の猶予期間が置かれていた。しかし、今回の省令改正が、即時対応となれば、現場は大混乱しかねない。
<引用2>
すでにNTTドコモとKDDIは、総務省の「完全分離プラン導入」という意向を受けて、新しい料金プランを6月からスタートさせている。
<引用3>
ということなのだが。
端末代金においても毎月の通信料金にしても、そもそも現状の様に複雑にする必要がなく、もっとシンプルであって然るべき。
「スピードの速いスマホ業界」というのは通信キャリアがわざわざ複雑怪奇な料金体系を作り出し、ユーザーや有識者からの指摘を次々と目くらましのようにかわしていくための策であるのに、なぜその通信キャリアのやり方に軸足に据えて考えるのか?
なおかつ、複雑怪奇にすることにはこれまで超スピーディーに動いてきた通信キャリアが、シンプルに分かりやすい料金体系を作り出すことに何故そんな悠長に時間が必要になるのか。
至る所がパラドックス祭りになってしまっている。
利用するサービスの対価としてお金を払う行為を複雑にする必要はそもそもないのである。
通信キャリアの作り出した複雑怪奇な料金システムは、昔の生命保険会社が行っていたトリックと何も変わらないのに、なぜその指摘をサボって「スピードの早いスマホ業界」なんてロジックに与するのか。
シンプルで分かりやすい料金システムにするという要求を毎回いたちごっこでかわしてきた結果が、総務省の議論が後手となっている現実。
そりゃ後手になるでしょうよ。
作った当事者でなければ理解するのも大変な奇天烈・複雑怪奇なシステムなんですから(笑)
昨年、菅官房長官が「通信費4割下げろ」と要求した際「具体的な内容に触れずただ4割は横暴」のような指摘も多くあった。
菅官房長官があえて「4割下げろ」とだけ言ったのは、これまでのように指摘されたことには巧みに網の目を潜り抜けるようなイタチごっこになることは避けるため、本質的に安くなる結果だけを求めて、あえて具体的なことには触れず「4割下げろ(できないわけがないのは分かっている)」ということ。
総務大臣を経験して通信業界を知り尽くしている菅官房長官ならではのやり方だ。
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【参考】この記事の要約1~4を参考にしてほしい
料金プランの妥当性に関して、通信3社の主張は本当に信用できるのか?
- 大企業の利益率が平均6パーセントなのに対して、通信3社は20%の超高利益率
- 通信キャリアが国に支払う電波利用量は値下げが続いている
- MNP乗り換えキャンペーンの最盛期には1人に10万円ばら撒き
- (補足)電波は国民の財産であると同時に、電気・ガス・水道と同等の公共ライフラインである
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これまでの部分をまとめると
<引用1>
(これまで)導入するまで一年弱から1年半の猶予期間が置かれていた。しかし、今回の省令改正が、即時対応となれば、現場は大混乱しかねない。
これに対しては。
混乱しないようにシンプルな料金プランにすればいい。
<引用2>
すでにNTTドコモとKDDIは、総務省の「完全分離プラン導入」という意向を受けて、新しい料金プランを6月からスタートさせている。
これに対しては。
通信キャリアが姑息ないたちごっこを続けるのであれば、本当の意味でユーザーにメリットが出るように何度でもやり直させればいい。
<引用3>
これに対しては。
後手にならなくていいような、シンプルでユーザーに向いた料金プランにすればいい。「ついていけない」のは通信キャリアの周到で姑息な手法のせいなのだから本質を見誤ってはダメ。
次に解約料の妥当性について考えていきたいと思う。
ー 料金プランの基本設計は本当に通信キャリアの言う通りなのか?ー
<引用4>
関係者によれば「新料金プランは当然、解除料が上限1000円ということを考えて設計していない。秋に対応するのは無理に等しい」
<引用5>
新料金プランは、解除料9500円を前提に作られているため、解除料が1000円以下となれば、それに見合った料金プランに作り変えなくてはいけない。
ということになっているのだけど。
この2つにおいては本当にツッコミどころが満載なわけでどこから指摘しようかと思うくらいだけど・・・
通信キャリアが主張している「解約料」というのは契約(使用)を続けてくれるという前提に立ってユーザーにお得なプランを提供しているというのが建前だけど本当にそうなのか?
新しい情報では総務省が当初キャリアに提示いていた解約料は4000円〜5000円だったというのもある。
Engadjet日本版より
だが、1000円にしろ5000円にしろ解約料を考慮して料金プランが組み立てられているなんて話自体が著しく信憑性が低い。
これを参照してもらいたい。
- 3社はほぼ横並びの料金体系を続けてきた
- 3社とも同じように「縛り」を設けてきた
- MNP乗り換えキャンペーンの最盛期には10万円ばら撒きを行っていたが結果的に3社のユーザー推移は増えもしないが減りもしなかった。(流動層は全体から見ればほんの一部で結果的に3社比率はほぼ変化なし)
- 大企業の利益率が平均6パーセントなのに対して、通信3社は20%の超高利益率を維持し続けている
この4つをまとめると結局のところ流動的なユーザーはそんなに数多く存在していないことが分かると思う。
なのに3社横並びの料金・サービスを続けている状態で他業種の大企業と比較してあり得ないくらいの高収益を維持できているのは何故か?
ここから何が見えるか?
通信キャリアは競争しなくても高収益が見込める体制がバッチリできているということ。
「長く続けてもらえるならサービスします」というのは聞こえがいい建前で、そうでなくとも通信3社では超高利益率を維持できる見えざる手が働いているということ。
健全な競争が働いている市場では、業界内の主要な企業が一様に同じサービスや料金体系を維持したまま高収益を上げ続けるなんていうことは、市場原理から考えても非常識というかあり得ない話。
世の中の飲食店が一店も潰れずに儲かり続けるのと同じレベル。
そんなことはあり得ない。
今後、通信キャリアが〈引用4.5〉のような主張を繰り返してくるのであれば業界内の自浄作用なしと考えるのが妥当だろう。
商売の道具としている電波は公共インフラであるということを考えてユーザーもそれを意識した目で注視しなければいけないと思う。
今、世界中で叫ばれているSDGs〈持続可能な開発目標)の観点からも国民の誰一人として切り離せない公共インフラを限定された大手3社が暴利を貪る道具にさせておくのは絶対に許してはいけないと思う。
そして最後にこんな疑問を呈しているのだが。
<引用6>
解除料がなくなることで解約しやすくなるのは間違いないが、一方で、「解約して乗り換えたいと思えるキャリアがどこまであるか」という点も疑問符が湧く。
ここはまさに通信大手3社の”健全な競争”が機能していない最大の問題点だ。
10万円ばら撒きを行っても3社のユーザー比率は前後でそう大して変化はなかったという原因もここにある。
結局のところ現状の日本のスマホ・ケータイの通信市場というのは『ユーザーとキャリア』が向き合っている状態ではなく、大手3社キャリアの健全な市場競争が働かない不透明な囲いの中でコントロールされている状況だと言える。
例えて言うならほとんどブラッドダイヤモンドの世界と同じだ。
デュカプリオ主演の映画であったアレと同じ。
自分自身は長く建設業界の慣例のなかで動いてきた人間だけど、通信キャリアの現状は正直に言って建設業界よりもはるかに醜悪なイメージに映る。
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